Please Login to save the post
0
④身体をととのえるということ
ここまでは、
病気のときのヨガの有用性について、「なぜほかのエクササイズではなくヨガなのか?ほかのエクササイズとは何がちがうのか?」について綴ってきました。
人間というものを、身体(肉体)だけでもなく、心だけでもなく、魂だけでもなく、その総合でありすべてが作用しあってこの存在が出来上がっている、と捉えているのがヨガの考え方である、と書きました。
そしてそれらをととのえる具体的なやり方は、ヨガの八支則(アシュタンガ)のなかで指南されています。
八支則というのは、「このような段階の八つの項目を実践しましょう」という、ハタヨガの理論です。
心の正し方-つまり道徳のようなことから、肉体に関わること、集中するということ、などが八段階として整理されています。
わたしたちが「ヨガ」と聞いて一番にイメージする “○○のポーズ” というあれは、この八支則のなかの三段階目である「アーサナ」、そしてヨガクラスでも練習することもある呼吸法は四段階目の「プラーナヤーマ」です。
つまり、ポーズと呼吸の練習はヨガの八段階の教えのなかのたった2/8でしかないのです。
ほかに六段階も実践することがあり、そしてそのすべての段階を実践してこそ、ヨガの実践・練習なのです。
このアーサナ(ポーズ)、プラーナヤーマ(呼吸法)は身体(肉体)をととのえる段階です。
アーサナは練習したことのある人も多いでしょう。
そしてヨガのポーズをしたときに、「普段使わない筋肉を伸ばせて気持ちがいい」「すっきりする」などの体感を感じることもあるでしょう。
実際に、このアーサナ(ポーズ)は「身体のこの部分を使う、意識する」というように考え作られています。
身体の外部を使うだけなく、例えば、ねじるポーズは身体をねじることで内臓を刺激する効果がありそれによって消化機能を高める、というように内臓への刺激も考えられています。
このようにアーサナ(ポーズ)は肉体に直接作用することですから、注意しなければならないことももちろんあります。
開腹手術をしたばかりのときは、おなかをねじるアーサナ(ポーズ)は避けたほうがよいというのは当たり前の具体例です。
しかし注意することとは逆に、肉体に直接作用することだからこそ、有用なこともたくさんあります。
例えば、入院生活が続くなかで横になることが多かったり部屋から出られず運動量が少なくなる結果、便秘に悩む患者さんも多くいます。実際にわたしもそうでした。
そのようなときに、ベッドの上で寝たままでもできる「消化を助けるポーズ」を知っていたら、便秘を改善する助けになることもあります。
プラーナーヤーマ(呼吸法)も同様に肉体に直接作用します。
プラーナーヤーマの種類によって、神経を活気づけたり鎮静したり、消化を高めたり、特定の臓器を刺激する、などとされています。単純に「深い呼吸をしたら気持ちがいい!」というだけでなく、「このようなやり方をすると、このように神経や臓器に影響を与えます」というそれが、ヨガのプラーナーヤーマ(呼吸法)です。
一般的な西洋医学をもとにした解剖学でも説明できることと、ヨガ哲学の独特の解剖学による理論、その両方を含んでいるのが現代多くの人に実践されているヨガのアーサナ(ポーズ)とプラーナーヤーマ(呼吸法)なのです。
がんと直接関係のない不調
治療をしていると、がんの症状とは直接関係のない不具合を感じる場面もたくさんあります。
上記にあげた便秘の例もそうですが、横になっている時間が長いがために感じる腰痛や、これからさきのことを考えてしまって不安で落ち着かないことや、それゆえの不眠、緊張して身体や血管がこわばるゆえに採血の針が入らない…等々あげればキリがないほどに、身体や心に感じる不具合があるのです。
そのようなときに、便秘薬で便秘を解消することや睡眠薬で入眠することももちろん可能ですが、アーサナ(ポーズ)やプラーナーヤーマ(呼吸法)を上手に使って、不具合に感じる症状を改善することもできるのです。
だって、アーサナもプラーナーヤーマも肉体に直接作用するように作られているのだから。症状に作用することもできるはずです。
自分の身体について、よくわかるようになる
また、アーサナやプラーナーヤーマを実践してゆくと自ずと、自分自身の身体について感じる機会が増え、自分の身体に意識的になってゆきます。
そうして自分の身体のことを自分で感じられるようになると、治療中や入院中に、今回使ったお薬が自分に合っているのかいないのかや、今日食べられる食事の量や内容や、今日の自分が動ける範囲や休みたいことなど、治療から生活までの「自分にとって無理のないやり方やバランス」を自分で選べるようになります。
病気のとき、治療をしているときに、この「自分で選ぶ」ということはすべてにおいてとても大切なことです。
自分の身体のことは自分でしか感じることができません。
合う治療も合わない治療も、良い食べ物も悪い食べ物も。世の中にはたくさんの情報が溢れていますが、どれが自分のとって良いのか、は自分にしかわかりません。
誰かが「これがいいよ」と言った治療や薬や食べ物を鵜呑みにしても合わないかもしれないし、万が一それが合わなかった場合、「あの人が言ったから取り入れたのに…」という「あの人のせいでわたしはこうなった」という思いが生まれ目の前のことにネガティブにもなりがちです。
そうなることなく、目の前のことに前向きに向き合ってゆけるためにも「自分で選ぶ」ということはとても大切なのです。
アーサナやプラーナーヤーマが直接がんを治すということではありません。
広い世界に目を向けたらもしかすると、そのようなこともないとは言い切れないのかもしれませんが、わたしは「ヨガだけで病気を治すこと」を提案しているのではありません。
ただ、ヨガの理論のなかにこのような身体をととのえる方法とその作用や効果がありますから、それらもうまく使ったら、治療や生活をすこしでも健やかにすすめることができるよ、という可能性の提案です。
ヨガのアーサナ(ポーズ)やプラーナーヤーマ(呼吸法)を実践して身体をととのえることで得られる、病気のときに活かせる具体的な恩恵は、このようにたくさんあげられるのです。
~第5回「心をととのえるということ」に続く~